西早稲田在住。高田馬場と西早稲田で掛け持ち非常勤講師をしています

中学生の頃、同級生に早稲田のお寺のお嬢さんがいた。ある日曜日、私と数名のクラスメイトは彼女の家に招かれた。彼女の家の最寄り駅は早稲田だったが、待ち合わせは高田馬場だったのだと思う。思う、というのは待ち合わせた場所の記憶はないのだが駅から彼女の家へ向かう途中で一軒のお店に立ち寄ったからだ。

 

彼女がその店の前で立ち止まるまで、私はそこが店舗だと気づかなかった。まわりの商店とちがって、引き戸が半分閉まったそこは何を商っているのかちょっと見にはわからなかった。彼女は戸をガラガラッと開けて「こんにちはあ」とかなんとか言ったのだと思う。奥からおばさんが出てきていつものね、みたいな感じで何やら包みを手渡した。そこからまたけっこうな距離を歩いて彼女の家に着いた私たちは、手作りのシュークリームをいただいたり、本堂で木魚をたたいて般若心経を唱えてみたり飽きるとピンクレディーを踊ったり(年がばれますね)したのだが、居間でお茶とともに出されたのがあのお店で買った最中だった。それは今まで食べたどの最中とも違っていた。薄紙の包みを開けると皮の香ばしい匂いとともに現れる大振りの丸い最中。ぱりっとした皮とたっぷり詰まった餡がおいしいのはもちろんだが、餡の中にはなんとお餅(求肥)が入っているのだ。それが私といなほ製菓のぜんざい最中の出合いだった。「おいしいおいしい」と何個も食べる友人もいた。お土産にまで頂いて帰ったその最中を父がいたく気に入って、その後何年もの間、時折思い出したように「Oさんにもらった最中はうまかったなあ」と言ったものだった。

それから20年余り。結婚した私は縁あって西早稲田に住むことになった。近所の地図を眺めていたある日、最中専門の店というのが目にとまった。そんな店、早稲田通りにあったかなあと訪ねて行き、買ってきた最中を一口。「わたし、これ、食べたことある!」記憶のかなたから本堂でピンクレディーを踊った日がよみがえる。あの最中だ。どうして今まで気が付かなかったのだろう。もちろん、その後実家へのお土産に買って、両親に喜ばれたり懐かしがられたりしたのは言うまでもない。そして今、我が家の子供たちの好物でもある。子どもついでに書くと、ぜんざい最中との再会から約10年後、子供が小学校に入学した。「なぜ、うちのPTA会長はスキンヘッドなのだろう??」なんとPTA会長はかつてのクラスメイトの弟さんだった。月日は流れ、あの頃小学生だった弟さんはお住職となっていた。そしてぜんざい最中は変わらない。もしかしたら微妙な改良が重ねられているのかもしれないが、変わらないと思わせてくれる安心感がある。

いなほ製菓さんのすごいところはたったひとつの商品で何十年も商いが成立しているところだ。世の中にはおいしい和菓子屋さんとか最中が有名な店とかはいろいろあるが、最中だけ、しかもお餅入りの最中だけ売っている店なんてほかにあるだろうか?

4月の下旬から休業に入って約ひと月。早く再開しますように。そしたら次に実家へ行くときには認知症が進み始めた母とその母につきあう90過ぎてなお元気な父に買って行こう。だから、いなほ製菓さん、いつまでも変わらぬおいしい最中を作り続けてください。

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SHOP DATA

いなほ製菓
住所:東京都新宿区西早稲田3-15-5

tel.03-3203-2280

営業時間:9:00〜19:00

定休日:日曜日

現在休業中です。

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