高田馬場の人気店「バインミー」の通りをちょっと西へ入ったところに、そのお店はあります。
そう。東京コスモ学園。
……じゃなくて
el Gringo。
エル グリンゴと読みます。
反対側から撮った写真。
いわゆる一軒家ですね。誰が何を言おうと完全に一軒家。
ちなみにこちらは築50年以上の建物。かつて「スナックろーぷ」というお店が長く営業をしていたそうです。
高田馬場の大先輩たちも、若き日には足しげく通ったのだとか。
そんな高田馬場の変遷を見守ってきた場所に2015年の大晦日にオープンしたのが、このel Gringo。
シブい。
店内が暗めなこともあって、高田馬場新聞の写真スキルでは、その魅力も半分くらいしか伝わっていないかもしれません。
高田馬場新聞が連れていった人は皆、店内に入ると、うぁ〜ってちょっと良い感じの顔をします。と言えばなんとなく伝わりますでしょうか。
写真右奥の棚は造り付けで、スナック当時のまま使われています。
そしてなんと、2階(22席)もあります。1階は20席。
わかりづらいかもしれませんが、あんなものやこんなものが丸見えになりそうな螺旋階段を2階に上がりきったところの写真です。
バーカウンター。
元は2階部分は3部屋からなるアパートだったのを、1F店内から螺旋階段でぶち抜いてしまいました。
なので2階には外階段がついていて、それ使ったら食い逃げできそうなのはここだけの話。
梁も天井も、なんとも渋い。
耐震強度? それ、中華のなんかうまいツマミだっけ?
そんなel Gringoのオーナーがこちら。吉田麻莉さん。
ご本人いわくel Gringoの「ママ」なのだそう。
そしてキッチンを担う、まことさん。
高田馬場の音楽系専門学校“ESP”を出たっていうのに、なぜだか料理の世界に飛び込んで、流れ流れてel Gringoにたどりつきました。
しかしESPは高田馬場の飲食店従事者の生産地ですね。確かビー・フラットのニノさんもESPだったよね。
吉田麻莉ママ(以下、吉田ママ)に話を戻します。
高田馬場新聞「なんで、ママなんですか?」
……あ、この質問するの忘れてました。
その話はまたいつか聞いてみましょう。
気を取り直して
高田馬場新聞「どんないきさつで、このお店を?」
吉田ママ「えーっと。どっから話そうかな…
…んじゃまず……俺こないだ32になったんすけど、15歳んときのことです。親戚のおじさんが那須塩原で旅館やってましてね。なんかわかんないけど、俺に調理場で働けと。白羽の矢をおっ立てられたんですね」
高田馬場新聞「那須塩原、ですか」
吉田ママ「そう。でも1カ月半くらいそこで働いて、なんかこういうのって、後継がないといけない感じがヤだな〜って思って。おばさん、つまりおじさんの奥さんに相談したんですよ。辞めたいって。そしたらあっさり、わかった。お前のやりたいようにやれと。そんで俺が働いた分だ、つって結構な額の給料もらっちゃって。さらにおばさんからも心づけまでもらっちゃって。15歳なのに数十万円も持っちゃって、かなりビックリしましたよね」
こりゃのっけからダイナミックな展開。
高田馬場新聞が15歳の頃っていったら、ドラクエやりこんでた頃ですよ。だいぶと違うな。
吉田ママ「でもそんときに料理はとても好きだなと思ったんで、東京へ戻っていくつか調理のアルバイトをやりまして。そんな中でハタチん時に原宿のカフェで、もうじき店閉めるから好きにやっていいよっていわれて、ハタチで店を任されちゃったんですよね。もうね、それで完全に目覚めちゃいましたよね。料理に。
その店を閉めた後は早稲田のカフェで働いたものの、学生相手だとあんまり面白くねーなと思ってたら、大人の人が共同出資で居酒屋やんねーかと声かけてくれてね。そんで高田馬場でエスニック居酒屋をやり始めたんすよ。それがね…」
お。なんだこの未だ高田馬場新聞になかった感じの展開。
吉田ママ「あ。詳しくはまた今度話しますよ。とにかくむにゃむにゃあって閉店しましてね」
あれま。ま、お店閉めるってことはなんかありますわね。
深追いするよりはその次の展開が気になるので話しは次へ。
吉田ママ「で、次に戸三小通りのところでBIJOUって13席くらいの店を始めたんです。寒い日に開店したのでなんとなくビーフシチューを出してましたね。それがいつのまにかルチャリブレにはまりだして、チリビーンズを作るようになって」
高田馬場新聞「ルチャリブレって…えっと…」
吉田ママ「メキシコのプロレスっす。とにかくそれで、チリビーンズには絶対こだわってやろうって決意しちゃってですね。そんで、今でも出してる定番メニューになったってわけです」
えっと…話がつながってるようなつながってないような…で、そのお店はどうしちゃったんですか?
吉田ママ「大家と喧嘩して。2012年のボジョレー解禁の日でしたかね、その日に閉店しました」
う〜ん。なんかよくわかりませんが、なんともドラマチック。いや、完全にドラマ。
ドラマということは当然、さらに展開はあるわけですよね。
吉田ママ「その後は別の店を手伝ったりしつつ、この店(el Gringo)をやろうということになって。んで、工事始まってしばらくしたら大工さんがお金振り込まれてないって言ってきてね。俺は一緒にやる予定だったやつに金を渡してあったから、むむむっ!と。つまりまぁ結局のところは持ち逃げをくらったと。それで、こりゃもう参ったなぁと思ってたらですね」
え……この話、そっから転がる?
吉田ママ「キッチンを任せる予定だった誠がね、真面目な顔して『この店で頑張りたいっす』とかいってきちゃったわけですよ。泣きそうな顔で。いや、泣いてたかもしんない」
ここで浪花節に展開すると。
吉田ママ「まぁそんじゃぁ乗りかかった船だし、工事も進んじゃってるしというんで、何とかあれこれ頭下げていろいろ工面して」
うーむ。こういうのも、いわゆる“持ってる”っていうのでしょうか…
吉田ママ「で、大工さんも大晦日くらいは休ませてよっていうのをダメっつって工事やってもらって、2015年の12月31日の15時くらいにメドついて。これならオープンできそうだっていうことで、掃除して21時に店開けました」
しかしこんな感じでなんとも波乱バンジョーな身の上話も、吉田ママの飄々とした語り口で聞いていると、なんだか笑い話のように聞こえてくるから不思議。
聞けば、古間亭マスカラスという名前で落語もやったりするのだとか。いろんな顔、持ってますな。
そしてこのelGringo、居心地が良いので、もうドラマはいらないです。
お料理はどんなものを出しているのでしょうか。
吉田ママ「いちおう聞かれたら、“スペイン語圏料理”って言うようにしてますね。スペイン料理とかメキシコ料理とか、そのへんの」
この日は豆をトリッパと煮込むところでした。
吉田ママ「できあいのものってったら、オリーブと、あとはタコスの皮くらいくらいですかね。あとはだいたい自分とこで作ってます」
営業時間は13時から27時まで。
昼から開けてるんですね。
吉田ママ「いわばバルって、そういうもんだよねっていうことで。バルって名乗ってもバル風居酒屋じゃ意味ないし。
でもランチやってます!ってのもちょっと違うなぁってことで、13時からにしてます。休みは年中無休にしてますが、月に1日くらい、スタッフの慰安とかで休んだりします」
ゆるい、って言うのともちょっと違う心地よさのある店です。
建物の雰囲気とか、ママの佇まいとか、なんかそういうのかな。
あ、あと取材の日はいませんでしたが、ワンコがいます。この店。
なんか食べてると猛烈にアタックしてきますので、そういうのが苦手な人は行かない方が良いですね。
あ、店名のel Gringoは「ガイジン」って意味だそうです。
ちょっとからかった感じで言うニュアンスのアレ。
こんなとこにも吉田ママのひねたセンスを感じます。
場所が相当わかりづらいので、迷子になるのを覚悟で行ってみてください。
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SHOP DATA
el Gringo
住所 東京都新宿区高田馬場4-10-13
電話番号 03-5937-1259
営業時間 13:00〜27:00
定休日 不定休