サイトアイコン 高田馬場新聞

染色業20工房ぐるっと一回り。紺屋めぐりが面白い。

神田川周辺が染色産業の集積地であるということは、知っている人は知っている、早稲田・高田馬場の特長のひとつです。
染色産業は江戸の地場産業で、武士の裃(かみしも)に代表される小紋染などが発展しました。かつては日本染色産業の三大産地として京都、神奈川と並ぶほどの規模を誇っていたとか。

はじめは神田、浅草が染色業のさかんな場所だったのが、明治時代以降に水質が悪化。
それに伴って拠点を上流へと移し、現在の江戸川橋から落合に至る地域が染色の一大産地になっていったそうです。
詳しくはコチラの記事をご覧ください。

そんなご縁で始まった新宿染色協議会とのご縁。
今回は10月8日から始まるイベントのお知らせが届きました。


「江戸新宿 紺屋めぐり」です。
新宿区染色協議会が主催で、落合・高田馬場・早稲田に拠点を構える染色10業種20工房をそれぞれ見学、体験してまわることのできるイベントです。

これまで染色協議会のイベントとしては落合・中井の「染めの小径」、高田馬場の「染色体験・水元再現」などがありました。
今回は落合から早稲田に至るまでの広範囲を対象としています。

刺繍、紋、更紗・紅型、染色補正、湯のし、洗張、浸染、引染、友禅、小紋と、一口に染色産業といっても、これだけ多様な業種から成り立っているんですね。

今回の紺屋めぐり、それら染色業10業種20工房を、10月8日(木)から17日(土)までの10日間、見学・体験ができるイベントなんです。
パンフレット(PDFファイル)はこちらからご覧頂けます。

 

そこで今回、20工房の中のいくつかを見学してきました。
さすがに全部は回りきれませんでしたが、巡る先を検討する検討材料になれば幸いです。

 

最初におじゃましたのは、吉澤湯のし加工所。

湯のしとは、反物のしわを取って幅を均一に揃える、染色の最終工程。

蒸気を使った機械を反物が流れていき、職人技で幅を整えていきます。
こちらの吉澤さん、創業80年を超える吉澤湯のし加工所の三代目です。

 

 

次に訪れたのは、落合の二葉苑。
こちらは富田染工芸の染ものがたり博物館と同様、新宿区のミニ博物館の指定を受けています。

作品を展示するギャラリーが併設されています。

 

あら。なんだか素敵な空間ですね。

染め物というと和装をイメージしがちですが、このようなストールもあるのですね。
モダンでなかなか良い感じです。

染めの工房がこちら。
二葉苑は更紗がメインの工房。
ひろびろとして奥行きがあります。
一反が12.4m程度とされていますので、これくらいの奥行きになるのですね。

こういった場所を引き場というそうです。

 


こちらは板場。こちらはは以前ご紹介した富田染工芸のもの。

 


刷毛や染料の入った瓶が綺麗に並んでいます。

 

糊やロウで伏せた部分に着色をしていきます。こうした作業を「色を挿す」というそうです。
「塗る」とは言わないのですね。
手で挿すので、手挿しというそうです。

 

二葉苑は紺屋めぐりでは更紗部門を担当。
更紗は草花、鳥獣、人物などを図案化したものでエキゾチックな印象のものが多いようです。


二葉苑では紺屋めぐり期間中、全日程において見学・体験ができるそうです。

 

続いては染の高孝。

案内を見ると業種は友禅とありますね。
とは言えこちらの高橋さん、引き染めから小紋まで幅広く修行をしてきたそうで、多様な染色技法の追求をしておられるそうです。

ちなみに友禅とは、江戸時代に京都の宮崎友禅斎がデザインしたものがその始まり。
雅やかな京都の友禅が江戸に伝わり、江戸の「粋」なテイストを生かした図柄や色で江戸友禅ができあがっていったのだとか。
無線友禅、糸目友禅、ろうけつ染めの3つの技法が東京手描友禅とされています。

この日は京都からのオーダーの品を仕上げておられました。


裏から色を挿していきます。

こんな感じなのが、表から見ると
こうなるわけです。
染めのプロセスを超単純化して言うと、染まらないところを糊やロウで防染して、その上から色を挿し、糊を洗い流して蒸し上げる、という流れでできあがります。

手描きの風合いで、一つ一つの柄に味わいが生まれています。

そして高孝さんは、伝統技術以外の新しい染めの技法にもチャレンジをしている工房。
これは墨流し染めというもの。
ヨーロッパなどではマーブリングとして知られています。
マーブル模様がとてもかわいいですね。


墨流しは水そうに染料を浮かべて棒で模様を作り、それを反物にサッと移しとるというとっても刹那的な技法。
2度と同じ模様にはならないんですね。

その他にも、小麦を使った糊で、糊のひび割れを風合いとして出したものもありました。

伝統技法として認定されていない技法なども幅広く挑戦しておられるそうです。

 

4軒目に伺ったのは、染色補正彩徳。

染色補正とは小紋や友禅の仕上げとして染めムラを修正する仕事。地直しといいます。
それと、反物や着物のしみ抜きをするをする仕事です。いわゆる「しみ抜き屋さん」ですね。

こちらは染色補正技能士(国家検定)の小林さん。
クリーニング店などで提供している染み抜きとの違いを詳しく教えてくださいましたが、あまりに業界の内部に切り込んだトークだったため、こちらには書かないでおきます。
詳しく聞きたい方はぜひ見学の時に伺ってください。

息子さんとお二人で営んでおられます。
昔はしみぬき屋さんは100軒ほどあったそうですが、現在は50軒ほどに半減したのだとか。


しみ抜きの依頼を見せていただきました。
白い花のところに黄ばんだシミができています。
これを落とすのがプロのワザ。

白いところであれば薬品を使ってシミを落とすわけですが、染まっているところのしみ抜きをすると、周囲の色と同じように染め直しをしなければなりません。
染色補正、いわゆる地直しも同様。


そこで使うのがこれらの染料。赤色だけでもたくさんの色があります。
とは言えたったこれだけの染料で、あらゆる色を生み出すのだというんだから、驚きです。

 

それもそのはず。
小林さんは、2006年に開催された第24回全国技能グランプリの染色補正職種部門において優勝の栄誉に輝いた、日本一の染色補正職人。
ちょうど、その優勝をした時の課題作を見せていただき、その技能の凄さを目の当たりにしました。


この2つのまる〜くなっているところがシミです。
もちろんそれぞれ特性の違うシミ。例えば1つはすき焼きのシミだそうで、タレと肉の脂が混ざってとーーーーっても難しいシミなのだとか。

それが、ほら!


こんなに綺麗に取れてしまうんですね。

 

 

次はこちら。
真ん中に一本引かれている赤いライン。

これを、消すだけでなくて、こう!

左側の真っ白い部分が完全に色を落とした状態。そこから着色をしていって、真ん中のように、他の部分と違いがないように復元するというわけ。
これまさに凄技!

 

3つめはこの目の覚めるような赤色の布。真ん中に白く紋が抜いてあります。

この周囲の囲みの罫だけを他と同じ赤に染めるわけです。

赤色は特に再現が難しいそうで、そのため、染料の種類も赤色を多く揃えているとのことです。
しかも一定期間使って日焼けもするわけで、単純に最初に染まった色というわけでもないのですね。

優勝すると難しい依頼がたくさん来て、詳しくは書けないようなヤンゴトナキお方のお召し物が来たりするようで。「とっても名誉なことだしやりがいはあるけど、大変だよね〜」とおっしゃっていました。

 


こちらは息子さん。
凄技が高田馬場の地で引き継がれていきます。

 

5軒目に訪れたのは、ふじや染工場。
引染の工房です。

こちらも奥行きが長いつくり。土の床ですね。

そしてストーブが焚かれている! このときは9月上旬。
暑い!!!!

手前から向こうまでひたすら刷毛を使って染めています。

引染は生地に染料を刷毛で塗っていきます。
長い生地を刷毛で染めていくため、端から端までを同じ色に染める、高度な技術を必要とします。

ストーブを焚いているのは染料の乾きを早くするため。
ふじや染工房では水元(糊を洗い流す工程)、蒸しの工程もあります。
イベント期間中は日・祝日以外は見学を受け付けているので、タイミングが良ければ染め、水元、蒸しが見られるかもしれませんよ!


こちらでも伝統の技が後世へと受け継がれているようです。

この秋、神田川をそよぐ風に吹かれて、紺屋めぐりとしゃれこみましょうか。

モバイルバージョンを終了